BYD新型「軽ハイトワゴン」登場! SNSで“賛否両論”の新型「ラッコ」を“冷静に”ひも解く! 試乗して見えたBYDの「本気と課題」とは
メディアやSNS上での「極端な論調」とは異なる現実
BYDの新しい軽BEV「RACCO(ラッコ)」が登場して以来、メディアやSNS上では“極端な論調”が目立ちます。
【画像】ついに出た! これが話題の「新型ラッコ」です!(86枚)
一方では「日本の軽自動車市場を崩壊させる最強の黒船が来た」と過度に恐怖を煽り、もう一方では「中国車なんて安かろう悪かろうで日本で売れるはずがない」と最初から笑って切り捨てる。
ですが、自動車というプロダクト、そして自動車ビジネスの本質を評価するうえで、こうした感情的な極論は正直悲しいです。
BYDというメーカーは、世界トップクラスのバッテリー技術と圧倒的な自社内製化(垂直統合)ノウハウを持つ怪物企業であることは事実です。
一方で、日本のユーザーが長年培ってきた軽自動車に対する異常なまでの細やかな気配りや「すり合わせ」の要求水準に対しては、まだまだ未成熟で大雑把な部分を残しているのもまた事実です。
過度な恐怖心も、盲目的な偏見も一度脇に置きませんか?
このクルマが「どこが本当に凄くて、どこがまだ未完成なのか」、そして「BYDはどのような現実的な計算と覚悟を持って日本に挑んできたのか」。筆者(山本シンヤ)は客観的な事実と実際の走行フィーリングに基づき、冷静に紐解いていきたいと思います。

日本の自動車市場において、年間約130万台・新車販売の約3分の1という極めて大きなシェアを占める軽自動車カテゴリー。この日本独自の巨大なマーケットに対し、海外メーカーが専用プラットフォームから完全新規開発して参入しました。
前述の通りメディアではラッコの登場を「日本市場を脅かす黒船襲来」と大きく報じがちですが、BYDジャパンの日本幹部や開発陣のスタンスは全く異なります。
彼らは口を揃えて「黒船として市場を荒らしに来たのではない」と語ります。日本の伝統ある軽自動車文化に深い敬意を払い、その輪の中に仲間入りさせてもらうスタンスであることを強調しているのです。
事の始まりは、BYDの王伝福(ワン・チュアンフー)会長が東京モーターショー(現JMS)を視察した際に遡ります。日本の街を軽快に走る軽自動車のパッケージングと完成度に深く感銘を受けた王会長は、帰国後に「日本市場専用の軽BEVをゼロから作り上げよ」と開発チームに命じました。
つまりラッコは、既存のBEVを縮小したような安易なサイズダウンモデルではありません。日本のユーザーの日常生活や使用環境を徹底的に研究して誕生した、完全な“日本専用”モデルなのです。
BYDが「日本専用モデル」を作った理由
BYDの日本専用の軽自動車開発に対し、業界関係者やクルマ好きからは疑問の声も上がります。「日本でしか売れない軽自動車を専用開発して採算は取れるのか?」「売れなくなったらすぐに撤退してしまうのではないか?」という懸念です。
しかし、発表会や技術説明の現場で得られた証言を紐解くと、そこにはBYDの緻密な世界戦略と揺るぎない覚悟が見えてきます。
参入の最大理由は「日本市場の“本丸”に飛び込まなければ、日本での認知もBEV普及も得られない」と悟ったからです。

BYDはこれまで「ATTO 3」や「ドルフィン」などのグローバルモデルを展開してきましたが、これらは普通車であり、日本の多くのファーストカー・セカンドカー需要が集中する「軽自動車市場」の枠外にありました。
王会長が感銘を受けた通り、日本のユーザーが最も普段使いしている軽自動車を自ら作ることこそが、日本での信頼を獲得する最速の道だったのです。
また、日本の過疎地や郊外においてガソリンスタンドの廃業が深刻化している点にも着目しています。自宅で夜間に充電でき、日々の買い物や送迎をこなせる安価な軽BEVは、地方の日常生活を支える「新たな社会インフラ」となり得るポテンシャルを秘めているからです。
通常、単一国限定の専用車を新開発すると開発費が大きな課題となります。ラッコの年間販売計画は1万台ですが、正直このレベルでは採算が合わないというのが定説です。
しかし、BYDには世界トップクラスの「垂直統合(自社内製化)」という武器があります。LFPブレードバッテリーやモーター、インバーター、制御ユニットに至るまで主要コンポーネントの大部分を自社グループ内で完結できるため、開発・調達コストを劇的に抑え込める……というわけです。
ちなみにラッコに採用される統合パワーユニットや車体構造技術、ソフトウェアの多くは、BYDがグローバル市場で何百万台と量産してコスト回収が進んでいる上級モデルの技術資産からスケールダウンして「水平展開」されたものです。
初年度の目標販売台数が「年間1万台(月800~900台程度)」と極めて現実的ですが、自社内製と高効率なスケールメリットのおかげで、1万台規模でも十分に黒字化・継続できるコスト構造を成立させているからだと教えてもらいました。
また、海外メーカーへの最大の懸念である“撤退リスク”に対し、BYD幹部陣は明確な意思を示しています。発表会の現場で彼らは「RACCOを1世代、あるいは1車種だけで終わらせるつもりは毛頭ない」と断言しました。すでに数年後を見据えたマイナーチェンジや派生モデルのディスカッションを本国チームと始めており、継続的に日本の軽市場へ投資し続ける計画が動いています。
その覚悟は保証内容にも表れています。「6年または15万km」という異例の長期保証を標準付帯。更にユーザーが最も気になるバッテリー保証も8年16万km(有償で10年20万kmに延長)をカバーするなど、「日本市場に腰を据えて逃げない」という強烈な決意表明と言えます。
不利を承知で「これをやらなければ、日本で戦えない」
そんなラッコのエクステリアは、全長3395×全幅1475×全高1800mmという日本の軽自動車規格を限界まで活用した「軽スーパーハイトワゴン」スタイルを採用。
日本の軽BEVのほとんどは、車高は比較的低め(前面投影面積は小さくしたい)、スイングドアの採用(車両重量はできるだけ軽くしたい)など、少ないバッテリーで航続距離を稼ぐための工夫が随所に込められています。確かにエンジニアリング的には正論ですが、BYDは「これをやらなければ、日本で戦えない」と、不利を承知でスーパーハイト×両側電動スライドドアのパッケージを選んだと言います。
デザインは寸法とパッケージを考慮すると他車と似てしまうのは仕方ありませんが、BEVらしい先進感と街中に溶け込む親しみやすさが上手く融合しています。フロントにはデザイン性に優れ、照射性能も高いLEDヘッドライトを配置しました。夜間のグラフィックや光り方もこだわっています。
ボディカラーにおいても、試乗車の「チーズイエロー」や鮮やかな「ルビーレッド」、落ち着いた「アークティックホワイト」など多彩なラインナップが用意され、カラーリングによってポップにもスタイリッシュにも表情をガラリと変える工夫が凝らされています。
タイヤは165/65R15、上位グレード(「300Plus」および「300Premium」)には専用アルミホイールが用意されていますが、エントリーグレードの「200」に採用されているスチールホイール&ホイールカバーのデザインも非常に洗練されており、安っぽさを感じません。

インテリアは新開発のBEV専用プラットフォームと統合型パワートレイン(X-Pack)の採用による恩恵がダイレクトに伝わってきます。
室内面積2.96平方メートルの広々とした室内空間で、頭上・膝元ともに大人4人がゆったりと寛げる居住性があります。インパネ周りはスッキリとしたデザインで、スイッチ類も操作系が分かりやすく整理されています。質感は劇的に高いとは思いませんが、決して悪くはありません。
また、ステアリングヒーターやシートヒーター、保温機能付きカップホルダーなども惜しげもなく採用する一方で、ナビはApple CarPlay/Android Autoで対応と割り切っています。
機能装備として「おっ」と思ったのは、両側電動スライドドアに採用されたハンズフリー機構です。従来の足をバンパー下にかざすキック式はセンサーの反応にムラがあり、不安定な姿勢になりがちでしたが、RACCOは地面に投射されたLEDマークを「踏む」ことでスライドドアが開く直感的な機構です。バンパー下に足を探し入れる必要がなく、両手が塞がった買い物帰りや子どもを抱っこしている際に失敗なく動作するため、極めて実用的で優れたアイデアだと評価できます。
フロントシートはこのクラスでは珍しい電動調整シート(パワーシート)を備えており、シート自体のサイズやクッションの厚みもコンパクトカー並みに大きく、ゆったりとした座り心地を実現しています。
しかし、比較的背の高い男性には快適な反面、身長150cm台の小柄な女性が深く座ると座面長がやや長く、膝裏が座面前端に当たってペダルへ足が届きにくくなる場面も。座面の長さ調整機能や、より細かな高低調整など、小柄なドライバーへの配慮が望まれます。
後席はダイブダウン格納によるラゲッジの平坦化を優先した構造となっているため、クッション性が前席に比べてやや薄く硬めです。さらに後席用のサーキュレーター(天井扇)も未装備であるため、真夏にはエアコンの冷気が届きにくく、前席と後席で冷房効果の温度差が生じやすい点も注意が必要です。
更に細かい所ですが、前席にはUSB Type-AとType-Cのポートが1つずつ備わっているものの、4人乗車時のデバイス充電を考慮すると絶対数が足りないことや、フロントに比べてリア周りの内装の仕立てが簡素であることなど、もう一歩の進化が必要な所も……。
評価が大きく分かれる「乗り心地」
技術的な部分はどうでしょうか。BYDが5年の歳月をかけて開発した「X-Pack(10-in-1 統合駆動・バッテリー・配電一体系システム)」および「CTB(Cell-to-Body)」技術がポイントとなります。
モーターは47kW(64PS)/160Nmを発揮します。バッテリーはリン酸鉄リチウムイオン(LFPブレードバッテリー)で、容量は用途に合わせて2タイプ設定。ちなみに「200」が22.40kWh/航続距離210km、「300Plus/300Premium」はバッテリー容量35.84kWh、航続距離320kmとなっています。
サスペンションは前:マクファーソンストラット/後:トーションビーム、ステアリングは電動パワーステアリング(減速比3.410)、ブレーキは前:ベンチレーテッドディスク/後:ソリッドディスクを採用。
衝突安全性能も抜かりなしです。従来のガソリン軽自動車は、限られたエンジンルーム内にパワーユニットを詰め込むため、衝撃吸収用ゾーンの確保が課題ですが、ラッコはインバーターやPCU等を一体化した10-in-1パワーユニット(X-Pack)の採用でフロントのクラッシャブルゾーンを伸長。
車体構造には、バッテリーパックを車体フレームの一部として構造化する「CTB」技術を採用。超高張力鋼板を車体の71%に使用し、2000MPa級の超高強度鋼板も随所に配置するなど、軽自動車としてはかなり贅沢な作りとなっています。

試乗したのは最上級の「300Premium」です。アクセルを踏み込むと、EVならではの走行フィールの良さがすぐに伝わってきます。車両重量は1230kgと軽自動車の中では重量級ですが、発進直後から力強いトルクが立ち上がるレスポンスのおかげで、それを感じさせません。
ただし、凄く力強いかというとそうではなく、アクセル開度に対して極めてリニアかつ滑らかに加速するようチューニングされています。そういう意味ではガソリン車から乗り換えても違和感がなく、街中のストップ&ゴーや坂道発進でもへこたれることなくスイスイと車体を前へ押し出してくれます。
ドライブモードは「ノーマル」「エコ」「スポーツ」「スノー」の4種類が用意され、シフトノブ横のスイッチで切り替え可能ですが、ドライバーからは少々見づらいかな……と。
ノーマルモードはアクセル操作に最も忠実で滑らかであり、普段使いに最も推奨できるベストバランスと言えます。スポーツモードにするとレスポンスが向上しますが、アクセルを踏み込んだ直後に一瞬「溜め」を作ってからトルクをドカンと出す演出が施されており、人によってはダイレクト感に欠けると評されることもあるでしょう。
回生ブレーキの効きはディスプレイ内で調整可能で、ハイ設定にするとアクセルオフで強力な減速が得られ“ワンペダル的な走行”が可能ですが、減速Gの立ち上がりがやや急でカックンブレーキになりやすい傾向。ノーマル設定のほうが乗りやすいと思いました。
ステアリングも少しクセがあります。15~20km/h付近を境に急にステアリングの手応えが重くなる傾向があり、低速の交差点旋回時と郊外の直線巡航時で、操舵フィールの連続性にやや唐突感やすり合わせ不足を感じる場面がありました。
そして、乗員や走行シーンによって評価が大きく分かれるのが「乗り心地」です。車重1230kgのドッシリとした重量感と低重心な車体構造のおかげで、前席は平坦な路面や街乗りでは軽自動車とは思えないフラットな乗り心地です。
大きめのシートクッションの良さもあり、風切り音やロードノイズが遮断された無響室のような静粛性も相まって非常に快適です。
ただ、路面状況が変化すると、サスペンションの引き締め感と足回りのバタつきが顔を出します。重い車体と1800mmの全高を支えるためか足回りはやや硬めのセッティングだと思いますが、特に後席は舗装の荒れた路面や路面の目地を通過する際には、下からの細かいピッチングや不快な微振動を絶えず拾って足元や膝元へ伝えてきます。
更に気になるのは前席と後席での「乗り心地と静粛性の落差」です。前席は極めて上質で静かな空間に包まれるのに対し、後席に移動するとサスペンションからの角のある突き上げ感が直接腰に伝わってきます。それに加えて、リヤタイヤハウス周りからロードノイズが共鳴したコロコロとした音が室内へ伝わってきてしまうため、前後席で快適性のギャップがかなり大きく存在します。
【結論】新型「ラッコ」をどう見るか
ハンドリングは街乗りレベルでは「数値ほど圧倒的な低重心感」を感じにくい所があります。ステアリングを切ってからの回頭性は良いのでノーズ自体はスッと入るものの、ロールの発生がワンテンポ遅れて付いてくるため、連続する不整路や交差点では意外と車体がグラグラとふら付く挙動が気になりました。
ただ、ワインディングのような道だと前述のふら付きとは少し変わってきます。クルマ的にはコーナーで腰高感が出そうと思われるでしょうが、中高速域でのステア特性とロールの追従性が上手くバランスし始め、S字コーナーでもロール量が自然で、見た目以上に一体感あるコーナリングを披露します。
良く言えばスーパーハイト系らしからぬ「前席優先のドライバーズカー」と言えますが、このクルマがファミリーや送迎などで果たすべき役割を考えると、乗り心地や静粛性のスイートスポットはもう少し前後・低中速域で広く取るべきだと感じます。
ラッコの価格設定および保証内容は、かなり攻めた内容です。価格は「200」が214.5万円で補助金(約15万円)を適用すれば200万円切り。「300Plus」が239.8万円、そして試乗車の「300Premium」が249.7万円となっています。
他社の軽スーパーハイトワゴン(ガソリン車)の上級カスタムグレードが250万円近くのプライスである現代において、大容量バッテリーを積んだBEVが実質230万円台で手に入る価格インパクトは極めて大きいでしょう。残価設定ローンを活用すれば、かなりリーズナブルな価格で購入可能ですが、5年残価率(50%)は保証ではないので注意が必要です。
保証は6年または15万kmに加えて、最も気になるバッテリー保証は8年または16万km(有償延長保証で最長10年20万kmまでカバー)を用意しています。

このようにラッコを冷静に見ていくと、ハードは優秀ですが、改善点や伸び代はある……というのが本音です。
まず挙げられるのが「すり合わせ技術の洗練」です。EPSのステアリング手応え変化の滑らかさや、回生ブレーキの初期立ち上がりフィーリング、そして低速域での揺り返しや前後席での乗り心地のバランシングと言った適合の部分に関しては、まだまだ改善すべきポイントはあると思います。
次に、徹底的にシンプルな「ベーシックグレード」の提案です。現状は豪華装備の「300Premium」が売れ筋の約8割を占めていますが、過疎地や地方の日常の送迎・買い物の足として割り切る層向けに、先進装備や航続距離を絞ったモデルがあるといいなと。例えばラストワンマイルを支える「航続150km・150万円前後」のモデルなどを用意すれば、見え方も変わると思います。
また逆の提案ですが、日本の軽スーパーハイトワゴンでは「カスタム系」が絶大な人気を誇っています。そこで例えば、BYDの高級ブランドである「ヤンワン」や「デンザ」のような威風堂々としたフロントフェイスを落とし込んだ「ラッコ・カスタム」などが展開すれば、ドレスアップ市場でも強い支持を得られるはずです。
そろそろ結論にいきましょう。
課題はいくつかありますが、1作目にしてこの完成度は正直ビックリしました。これからの熟成と進化に大いに期待したい一台と言えます。
そんなラッコに勝算はあるのでしょうか。筆者はそれでも一筋縄ではいかないと思っています。実は軽自動車のユーザーはメーカーとの信頼関係が登録車よりも強く、実際に他社からいいクルマが登場したとしても、そう簡単には“鞍替え”をしないと言います。
そこは嗜好品ではなく庶民の足だからこその特徴なのかもしれませんが、そんなユーザーのハートを動かすための“何か”が必要となるでしょう。筆者もその答えは明確に持っていませんが、BYDがそれを見つけた時に本当の意味で“黒船襲来”となるのかもしれません。

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